起立歩行障害を主症状とした小脳梗塞
常日頃より内科に多くの患者様をご紹介いただき、有難うございます。内科科長の小川克彦と申します。今回は起立歩行障害を主症状とした小脳梗塞を紹介させて頂きます。
急性めまいや平衡障害を呈するが四肢の失調が目立たない小脳梗塞は、症候のみでは末梢前庭系疾患との鑑別が困難なことから、偽性前庭神経炎とも呼ばれています。神経学的所見の特徴としては、高度のめまい・嘔吐・著明な側方突進現象 (高度の平衡障害)・眼振があり、四肢の失調は目立ちません。梗塞部位では小脳下部内側領域が多く、小脳下部内側領域は主に虫部と半球内側部に 2 分されます。両領域とも後下小脳動脈の灌流域であり、前者はその内側枝、後者は中間枝により支配されています。この領域の障害は、前庭系との関連が密接であるために回転性めまいと高度の体幹失調を呈することが多く、梗塞が浮腫により第 4 脳室を閉塞すると水頭症を惹起することもあります。頭部 MRI画像では小脳下部の虫部から半球内側部にかけて梗塞がみられますが (図 1)、虫部に梗塞が限局する例もあります (図 2)。体幹失調の診察では、側方突進現象を確認することが大切で、患者に閉脚で立位保持を命じ、左右いずれかの方向に偏倚すれば陽性になります。閉脚起立が不可能であれば開脚でも構わず、「右への側方突進現象陽性」のように記載し、立位が不可能であれば「立位保持不可」のように記しておきます。
末梢前庭系疾患に類似した小脳梗塞の診断についての注意点として、(1) 遷延性のめまい、(2) 側方突進現象の有無、(3) 中高年の発症、(4) 脳梗塞の危険因子、の 4 項目が挙げられています。これらの項目を有する患者では、小脳梗塞の鑑別がより必要になるため早めに頭部画像検査を行う必要があります。
当院神経内科は内科に配属されており、血管障害のみならず様々な神経疾患を診断加療しております。脳梗塞を含め神経疾患が疑われる患者様がおりましたら、ご気軽に紹介いただけると幸いです。今後とも宜しくお願い申し上げます。
図1 図2