循環器内科救急室室長の渡邉和宏です。
今回は院外心原性心停止患者の現場自己心拍再開症例の成績についてお話しします。
総務省の報告では、1年間での救急車出場件数はおよそ600万件、そのうち心原性心停止症例は7万件です。我が国における、2005年から2012年に発生した院外心原性心停止症例の長期予後が、2016年に報告されました。それによると発症30日後の社会復帰率は、わずか3.4%でした。比較的に予後の良い心室細動および無脈性心室頻拍の患者(shockable arrest)の社会復帰率は16.4%と、それ以外の患者と比較するとかなり多く感じますが、いぜん低率です。その原因の一つは時間にあります。心室細動の場合、迅速な除細動が最も重要であり、除細動が1分遅れるごとに生存退院率が7~10%ずつ低下します。昨年報告された東京消防庁の救急活動の現況では、救急車による現場到着所要時間は平均7分30秒です。この圧倒的な時間のロスに活躍するのが自動体外式除細動器(AED ; automated external defibrillator)です。
我々日本大学病院では循環器内科と救急科は常に連絡を取り合い、このような循環器救急患者の対応に滞りがないように従事しています。当院では院外心原性心停止症例に対して昏睡状態が継続しているようであれば、引き続き低体温療法を行い、脳機能の温存に専念します。深部体温を32~34℃まで低下させ、24~48時間維持します。その際の循環管理はもとより呼吸管理、尿量管理など厳密な調整が必要となります。その後、徐々に復温させていくときにも慎重に行います。院外心原性心停止症例において、AED等で現場で自己心拍が再開し30日後に生存している確率は、全患者で80.1%、shockable arrest患者で85.4%ですが、当院では95.8%です。さらに30日後の社会復帰率は全患者で55.3%、shockable arrest患者で62.4%ですが、当院では83.3%と高率です。このように、病院前の治療と、病院内での治療の二つの大きな輪が滞りなく順調に回ることにより、重篤である院外心原性心停止症例に対しても有効な治療が行え、良好な予後を迎えることができるのです。