日本大学病院 循環器病センターにて不整脈診療を担当しております横山勝章と申します。新型コロナウイルス(COVID-19)感染状況が日々刻々と変化しつつある日常のなか、皆様におかれましても日常生活および活動業務に、ご心労いかばかりかとお察し申し上げます。3年前に当院の不整脈診療の紹介をしましたが、この度はあらためてCOVID-19禍における不整脈治療の現状をご紹介いたします。
超高齢化社会を迎える本邦において、100万人超に有病者の増加を続ける心房細動は、心原性塞栓症とりわけ脳梗塞の発症による生命予後の悪化や心不全の発症、動悸症状によるQOLの低下、認知症や筋力低下、フレイル発症の要因となります。
不整脈疾患の根治治療として施行されるカテーテルアブレーションの大多数は心房細動アブレーションに対して行われ、全国で年間8万件以上に増加しています。従来の心房細動アブレーションは薬物治療抵抗性の症候性心房細動が適応とされ、第一選択治療ではありませんでした。2018年改訂の不整脈非薬物治療ガイドラインにおいて、症候性の発作性あるいは持続性心房細動に対して、抗不整脈薬の投与を経ずしてアブレーションを施行することが第一選択治療となりました。無症候性や長期持続性心房細動に対しても、抗不整脈薬の効果が期待できないことから第一選択治療として妥当とされています。健診や日常診療における心電図検査において「心房細動」と診断されたら、抗凝固療法などの血栓塞栓症の予防対策とともに、早期にアブレーションを行う時代になったといえます。
COVID-19感染拡大の当初は、全国の医療機関にて心房細動アブレーションを含む待機的治療が延期されました。2020年5月に日本不整脈心電学会で施行したアンケート調査では、不整脈治療の延期により病状の悪化をきたした例が報告されました。2021年2月に医師会や循環器疾患関連学会から発表された「緊急事態宣言下の心血管診療に関する緊急声明」で、治療中断や受診の手控えから不整脈疾患のみならず心血管病が重症化する症例が増加していることから、心血管病の治療継続および迅速な受診が強く推奨されています。
当院における心房細動アブレーション治療は、COVID-19禍以前の166例/年(2019年)から140例(2020年)に減少しましたが、治療を延期した症例はいずれも院内感染対策を鑑みた調整によるもので、患者様からの延期希望はほとんどありませんでした。2021年9月現在、心房細動アブレーションは通常診療を継続し、長期持続性心房細動を含み約86%が洞調律維持となっております。また合併症(心タンポナーデ、脳血栓塞栓、院内感染など)が懸念される現状で、上記期間の当院での発生は1例もなく、安全な治療を提供できると考えております。
当院では心房細動の早期発見を目標として、健診センターとの連携、7日間長時間ホルター心電図の活用、携帯心電計やAppleウォッチなどの新しいデバイス使用をお薦めし、COVID-19感染対策と日常診療の遂行を最優先としております。
不整脈疾患関連や心電図異常などのご相談も承りますので、お気軽にご連絡いただけますよう宜しくお願い申し上げます。