胃癌の腹膜播種に対する腹腔内化学療法をはじめております
腹膜播種とは、腹腔内全体にがんの転移巣が広がった状態です。種が播かれたようにがん組織が散らばっていることから腹膜播種と呼ばれます。いわゆるスキルス胃癌の場合には、見つかった段階で腹膜播種を伴っていることは少なくありません。また、胃癌では治癒切除後の再発形式としても腹膜は最多です。腹膜転移陽性の胃癌患者さんに対して、パクリタキセル腹腔内投与と全身化学療法を併用する治療を当院では行っています。
パクリタキセルは高分子量で疎水性という特徴がある抗がん剤で、腹腔内投与した後も長時間腹腔内にとどまる性質があります。一度投与されるとパクリタキセルの腹水中の濃度は非常に高くなり、時間をかけてゆっくり濃度が下がっていくことになります。腹腔内は、腹膜で囲まれた一つの閉鎖空間と捉えることもできます。腹膜播種は腹膜の表面に存在していることを考えますと、パクリタキセル腹腔内投与により、腹膜播種病変は高濃度に長時間、パクリタキセルにさらされることになります。
これまで臨床試験、先進医療で安全性が確認された治療法です。国内ではじめて患者申出療養制度下に実施された治療でもあります。全員に対して著効するわけではありませんが、非常に高度の腹膜転移であっても、著効して根治切除に進んだ患者さんもいらっしゃいました。しかし、パクリタキセルの「腹腔内投与」は現在保険診療下に行えない状況であるため、混合診療禁止の原則から本治療法を行う場合には全て自由診療となります。令和3年2月から本治療法を当院で開始し、これまでに9名の患者さんに投与を行っております。
腹膜播種を有する患者さんの場合、胆管狭窄、尿管狭窄、腸管狭窄といった管腔臓器の狭窄は多く経験するところです。順次ステント治療や手術治療で介入して、化学療法による腹膜播種コントロールを進めていく必要があります。当院消化器病センターでは消化管ステント、胆管ステント留置については必要時に早急に対応できる体制をとっておりますし、泌尿器科との診療連携もございます。腹膜播種に対しては化学療法のみならず、総合的に対応できる体制が求められます。既存治療で無効の患者さん、治療法についてご相談されたい患者さんがいらっしゃいましたら、是非とも当消化器病センターをお役立て頂けたらと存じます。
消化器病センター長 山下裕玄
消化器病センターの取り組み
2014年10月に現在の日本大学病院が開院しました。消化器内科と消化器外科が合同となって診療に取り組むべく、消化器病センターとして一つの部門にまとまりました。患者さんをご紹介頂く際には、内科・外科のいずれであっても問題ございません。お急ぎの際には消化器内科医師に直通の回線も用意いたしておりますので、是非ご利用頂けましたら幸いです。患者さん一人一人にあわせて、適切な、質の高い安全な医療を出来るだけ早期に提供する様、日々精進しております。患者さんや地域の先生方のご期待に沿えるよう、一同心を込めて診療にあたっております。
専門医による診療
消化管、肝胆膵疾患に対応をしています。各分野に専門医を配置し、内科では最新機器の内視鏡や超音波を用いた診断と治療を行っており、特に消化管の早期癌に対する内視鏡治療、肝癌に対するカテーテル治療は数多く手掛けています。外科では患者さんに侵襲の少ない腹腔鏡下手術を積極的に取り組んでおり、胃がんや大腸がんといった消化管癌以外にも胆石・胆嚢炎やヘルニアなどの手術も対応しています。