日頃循環器病センターをご利用頂き有り難うございます。今回のニュースレターでは趣向を替えて日常診療に潜む心アミロイドーシスの話をしたいと思います。
心アミロイドーシスとは、心臓に特に多く沈着するアミロイド性疾患の総称です。それは大きく2つの病型に分類されます。一つ目はAL(アミロイドライトチェーン)アミロイドーシスというものです。臨床的には骨髄腫の10-15%に合併すると云われており、心臓にアミロイドが沈着する病気です。治療は原疾患の治療になりますので確定診断後に血液内科で骨髄腫の治療を行うことになります。本疾患では血液中の免疫グロブリン遊離軽鎖(FLC)が高値となります。また免疫グロブリンの上昇、Bence Jones蛋白陽性などが起こって参ります。従って採血等検体検査が重要です。 二つ目はトランスサイレチン(ATTR)アミロイドーシスというものです。これは同じく心臓の間質にアミロイドが沈着しますが、ALアミロイドーシスとは異なり、更に老人性と家族性(遺伝性)に分けられますが、近年タファミジスメグルミンという治療薬が開発されたことで注目を浴びている疾患です。
心アミロイドーシスを疑ういわゆる表現型としては、数多くのパラメーターがあります。例えば、駆出率の保たれた心不全、60歳以上、治療抵抗性心不全、心不全による頻回入院、心房細動/徐脈/ブロック、軽度トロポニン陽性、両側手根管症候群、二頭筋腱断裂、起立性低血圧、多発神経障害/自律神経失調症、腰部脊柱管狭窄症、心臓超音波検査で心肥大があるのに心電図で低電位、QRS幅延長などです。これらの中で比較的多く経験するのが両側手根管症候群です。本疾患の整形外科の術前精査で当科に紹介され心アミロイドーシスが見つかることがあります。これらに当てはまる患者さんがおられましたら、ご紹介頂きたいと思います。
心アミロイドーシスを診断するためには従来生検術にて確定診断をしていました。しかし近年は非生検診断が普通です。何を用いて診断しているかというと心筋シンチグラフィという検査です。元々骨シンチグラフィ検査に用いられる99mTc-PYPというアイソトープがATTRアミロイドーシスに良く集積することが分かっており、FLCと併せて診断に用いるとALアミロイドーシスであるのかATTRアミロイドーシスであるのかを高い正確度をもって鑑別することが出来ます。当院には勿論シンチグラフィ検査装置であるガンマカメラを備えてありますので前述の非生検診断を行うことが可能となっております。
先程述べました表現型の中で注目頂きたいのは、軽度トロポニン高値、左心室の下側壁(後壁)の肥大、心電図におけるQRS幅延長(軽度心室内伝導障害)などです。この3つの項目をKumamoto criteriaと申しまして2項目以上当てはまる方は特に99mTc-PYPアイソトープ検査をされたほうが良い方になります。クリニックで心エコー図を行えないケースもあると思いますので、ご紹介頂ければ心肥大の有無を確認致します。
本疾患は早期診断が何より重要な疾患です。早期に治療を開始することによって生命予後を有意に改善出来るとされています。もし日常診療で本疾患を思い浮かべられましたら循環器内科 松本直也までご紹介頂けると幸いです。